2014年12月13日土曜日

低区配水塔と高区配水塔



水戸市の低区配水塔が土木学会選奨土木遺産に選出されたようです。
ところで低区配水塔という名前、気になりませんか?
低区ってどういう意味?低区があるなら高区もあるんじゃないの?


低区配水塔とは


低区配水塔は1932年に水戸市北三の丸(現・北見町)に完成。
高さ21.6メートル、容量358立方メートル。設計は水道技師・後藤鶴松によるもの。

そもそもこれは一体何の為の施設かというと、水道水を蓄える施設です。
後述する芦山浄水場から送水された水道水が低区配水塔に貯えられ、自然流下方式で下市・城東地域に供給されました。
1999年に稼働停止。

なお、ベージュと淡いブルーの現在の外観は年に再塗装をおこなったもので、それ以前は現在のベージュよりも淡いアイボリー一色の外観でした。


高区配水塔

冒頭で高区もあるんじゃないの?と言いました。
先に答えを書くと、あります。いや、あったのです。

では現在の高区配水塔を見てみましょう。




無いっ!

そう高区配水塔は1993年の稼働停止後、取り壊されてしまいました。
簡潔なスペックを記すと、高区配水塔は1932年に渡里村に完成。茨城大学から西に約100メートルほどの場所に存在しました。
高さ37メートル、容量735立方メートル。

芦山浄水場から送水された水道水が高区配水塔に貯えられ、自然流下方式で上市地域に供給されました。

様々な装飾が施された低区配水塔とは異なり、鉄鋼のトラスが主張する地味で武骨な外観。現存するものでいうと、群馬県前橋市の敷島浄水場配水塔に似たフォルムです。


低区配水塔と高区配水塔については、こちらのページ(pdf)が非常によくまとまっています。


芦山浄水場

モダンな意匠を持つ芦山浄水場正門(1932完成)

芦山浄水場は1932年に渡里村に完成。那珂川の中州の伏流水(地下水)を導水し、芦山浄水場で浄水。生産された水道水が低区、高区の二つの配水塔に送水されます。
芦山浄水場は設備の老朽化による生産性の低下を理由に1993年に廃止されました。

廃止後の活用方法は、独特です。
当初は歴史的価値の高い施設であることから水道記念館及び水道公園の設立が検討されましたが、市街地から遠いという理由で白紙に。
跡地の利用は現在も議論されてはいますが、2013年からは映画やテレビドラマのロケ地として活用されています。
水戸フィルムコミッション


中に入ってみたい…。


水戸の近代水道

芦山浄水場と低区配水塔、現存しない高区配水塔はすべて水道関連の施設です。
いずれも完成が1932年。この年が水戸の近代水道スタートの年です。

近代水道とは、浄水をおこなって水道水を生産している上水道のことです。
湧水を直に利用していた笠原水道はもちろん、鋳鉄管での送水や配水タンクを設けていた下市水道も浄水をおこなっていないので近代水道ということはできません。

芦山浄水場、低区配水塔、高区配水塔は「芦山浄水場と配水塔」という名義で厚生省が1985年に発表した近代水道百選に選ばれており、歴史的な価値が高いことを裏付けています。

以上の位置関係をカシミール3Dで作成した地形地図上で表示すると以下のようになります。

1932年当時の水戸全市水道関連施設(筆者作成)

先ほど紹介した低区配水塔、高区配水塔はどちらも芦山浄水場で生産された水道水を蓄える施設です。では一体何故高区と低区の二つの配水塔が存在するのでしょう。これを説明する前に、上水道の仕組みを理解する必要があります。

歌の文句に「水道蛇口ひねるとジャーだよ」とあるように、当たり前のことですが水道の蛇口を捻ると水が勢いよく出てきます。何故かというと水道管が加圧されているからです。つまり水道管は常にパンパンに膨れ上がった状態になっていて、そこに穴を開けて飛び出してくる水を我々は使っているわけです。

近代水道の簡潔なフローチャートと水道用語

加圧の方法は二通り。重力による自然流下方式と、ポンプを利用したポンプ加圧方式。給水区内の標高差が小さい場所などではポンプ加圧方式が取られることもありますが、電力を利用しない自然流下方式が一般的といえるでしょう。

水道の水圧は配水塔の高さで決まります。
配水塔が高くなるほど、つまり位置エネルギーが大きくなるほど水道の水圧は大きくなり標高の高い場所にも配水が可能になります。

団地には必ずその最上階よりも高い給水塔が聳える

さて、水戸の当時の市街地である上市と下市では20m以上の標高差があります。

もし低区配水塔が存在しないで高区配水塔の一つのみ存在したとしたら、どうなるでしょう。過剰に強い水圧で下市地区に水が届くことになります。
ということは、ちょっと蛇口を捻るとナイアガラ。シャワーは矢の如く身体に刺さってきます。これでは大変不便です。
これを是正するには各々の建物で水圧を調整して給水をおこなわなければなりません。
これは大いに不経済です。

逆に低区配水塔のみであったら、下市の住民は適当な水圧で水道水を利用することができますが、上市の住民は過小な水圧での生活を余儀なくされます。シャワーの水はちょろちょろと弱く、建物の二階三階には水を引くことができません。
これを是正するには各々の建物の地下にポンプを設置し水圧を高めて給水しなければなりません。
これも大いに不経済です。

ということで、上市地区に適当な加圧をおこなう高区配水塔と、下市地区に適当な加圧をおこなう低区配水塔の、二つの配水塔が設けられることとなりました。

以上の説明を図にすると以下のようになります。

全市水道完成当時の簡略図

インフラは地形と密接な関係にあります。
特に水は地形に最も素直に従う物質なので、水道や農業用水路の設計は地形的な観点から考えるとより理解が深まります。
一つ例を挙げると、笠原水道。笠原水道を必要とした背景には都市の地質的な理由がありますし、笠原水道のルートは地形を緻密に計算して設計されています。

というような感じで、地形と都市に関する話をこれから書いていきたいと思います。
どうしても説明がちで読みにくい文章になってしまいますが、要するに水道管とか用水路とか楽しいよね!

付録

水戸の上水道史を簡単に年表にしてみました。
笠原水道に関する話はまた次回更新します。

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